無題 明日香 【2005/05/27 19:01:11】[返信][削除] 「悪いわね、麻紀」
麻紀に肩をかしてもらって、保健室にさくらは足を向けた。
肩をかしてもらい、一息ついたところで、気持ちに余裕ができたのだろう。左肩がジンと痺れてきた。たいしたことはないと思っていたのだが、そうでもないようだ。
麻紀についてきてもらってよかった。
保健室に入る時に、さくらは改めて礼を言った。
「いいわよ。気にしなくて。先生」
ガラッと保健室の扉を開ける麻紀。入学して早々に訪れる事になった保健室は、薬品の匂いがうっすらとする特殊な空間であった。
「どうしたの」
机に向かっていた、白衣を身に纏った女性が振り向いた。養護教員であろう、その胸には小さなネームプレートがついていた。
矢坂、とある。
「教室の扉に肩をぶつけちゃって」
さくらが矢坂にすすめられるまま、向かい合う形で用意された椅子に座る。
「ふむ。肩は左肩?右肩?」
「左です」
矢坂はさくらの左手をと左肩に手を伸ばし、軽く動かしてみた。が、さくらの声から悲鳴が小さくもれた。慌てて手を放した矢坂はどんな風に痛むかかきいてみた。
「最初は何でもなかったんですけど、段々痺れるように痛くなってきて」
「原因は?ただ、ぶつけただけって感じじゃなさそうだけど」
矢坂はちらりと、傍らにいる麻紀に目を向ける。
「あなたは?その場に居合わせたの?」
問われて麻紀は、頷いた。そのまま、見たとおりの事を口にした。いがぐり頭の印象は一応、ふせておいてやる事にして。
「そう。随分と激しくぶつかったのね。ちょっと、失礼」
再度、矢坂はさくらの左肩をさすってみた。
痛みに顔を歪めるさくらに、矢坂は「ありゃりゃ」と口にして手をはなした。
「レントゲン、とった方がいいわね。脱臼はしてないと思うけど、
場合が場合だから。クラスを教えてくれる?担任の先生には私から伝えておくわ」
結構、大事になってきたな、と思うさくらと麻紀であった。
さくらのクラスを聞いた矢坂は、用紙にメモを記入し、麻紀には昼休みが終わるから教室に戻るよう指示し、さくらにはカバンを持って、また保健室に来るよう指示した。これから病院に行くというのである。自分は自分で、職員室に向かうために席をたつ。
「レントゲン、ですか」
「念のためよ。念のため。相澤くん、ちょっと留守にするからあとはよろしくね」
あいざわ、という名前を口にしてさくらと麻紀は初めて第三者がいた事に気づいた。
返事とともに出てきたのは、ブレザーを脱いだワイシャツ姿の男子だった。衝立の向こうのベッドにいたようだった。
「承知しました。保健委員も楽じゃないですねぇ」
「文句言わない。今まで、寝させてあげてたんだから」
「授業さぼってたわけじゃないんですけど。昼休みだけじゃないですか。だいたい、僕にも午後の授業があるんですよ」
「心配しない。あんたの担任にも話しておいてあげるから。この子の病院行きにつきそいなさい。カバン持ちで」
「じゃ、僕が今から彼女のクラスに寄ってカバンを持ちますよ」
「それじゃ、ここが留守になるでしょ」
「不在の札、かけておけばいいじゃないですか。どうせ職員室までの往復でしょう」
「その間に不審人物に入られたらどうするのよ。文句言わずに、留守番してなさい」
そんな問答の結果、相澤という男子は矢坂の言うとおりにする事になるのだった。
いったい、なんなのだろう。
漫才のような二人の会話を聞きながら、さくらと麻紀は首を傾げた。同時に、この二人の関係や相澤なる人物についても興味がわいてきたのだが。 |